2000頭ほどと、もともと県内の飼養頭数が少ない鳥取和牛ですが、その品質の良さは全国的にも認められています。それは過去に、レストランシェフからは「脂がさっぱりしてるのに、赤身の肉の味もしっかりある!」、一般のお客様からは「牛肉の臭みが苦手で敬遠してきたけど、それがないから食べやすい! 何より美味しくて感動した!」などと、目の前で食べていただく方から様々なご意見を頂いてきました。
今回のバイヤーは、香港から。飲食店の中でも日本の業態に近い、串カツとラーメンの2店舗を運営していて、これから焼肉店をやってみたいと意気込む若手実業家のオーナー・ケビンさんです。
目次
ケビン(Kevin Shih)さんは、香港の会社「DREAM TEAM」にて、日本の飲食店のFC店で、串かつ2店舗、まぜそば、明治時代をイメージした小料理店や珈琲店などの複合店舗の3つの業態を経営されています。ラグビーのチームとか、オールスターとか、スポーツチームをイメージする会社名に、彼が1つの業態だけでなく複数の飲食業をする気概がすでに込められているように感じながら、鳥取県を案内させて頂きました。
1. 香港からのバイヤーケビンさんが鳥取和牛輸入をする目的とは
今回、ケビンさんの一番の目的は、弊社『やまのおかげ屋』が取り扱う指定農場「鳥飼畜産」の牛肉を見て、食べて、その素材を武器にした焼肉店を作り上げることでした。約3ヶ月の間、オンラインを中心に商談してきたうえで、実際に現場を見ることや肉を食べることができるということで、今回の訪問では非常に前のめりな姿が印象的でした。
鳥飼畜産では、繁殖と肥育の一貫生産をおこなっている現場を見てもらいました。鳥飼畜産の繁殖を担当する鳥飼育子さん(74)からは、「一貫生産をする畜産農家は増えてきている。経営的にも安定するから。しかし、うちのように市場から仕入れずに、自分とこで産ませた牛だけで一貫生産しとるところは多くないと思う。それが肉質と脂質の安定に繋がっとると思う。」そんな話が出ていました。
ケビンさんは、すでに3業態4店舗で、香港に住む人たちに多くの支持を集める繁盛店を運営する中で、新しい業態へのチャレンジというタイミングです。
香港では、すでに日本の和牛を使った焼肉店が多く存在しています。その中で、新しく店を始めるためには、他社の店舗とどのように差別化を図るかが重要です。
この点、ケビンさんは「和牛と言えば美味しいで通ってきたが、香港でも和牛を食べる場所が増えている。どうしても脂っこいというネガティブな声も上がってきている中で、私が扱いたいのは健康的なお肉。脂っこさを感じさせない味や後口を大切にした和牛を仕入れたい。」と再三言われていたのが印象的でした。
日ごろから自信を持ってお勧めしてきている弊社が選ぶ肉、鳥飼畜産の鳥取和牛の肉が本当に評価いただけるかどうかが問われる場です。県内外のシェフ、料理人、国外からのバイヤーを招く際には、いつも緊張感が走ります。
2.鳥取和牛とは? 鳥飼畜産の肉とは?
改めて、鳥取和牛についてご紹介します。
鳥取和牛とは、鳥取県内で肥育された経産牛を除く「肉質等級が3等級以上の黒毛和種で、鳥取県牛肉販売協議会を通じて、食肉中央卸売市場、鳥取県食肉センターで取引される枝肉、部分肉、精肉」を指します。
鳥取県のホームページによると、「古くから和牛の産地として知られる鳥取県。中でも1966(昭和41)年に岡山県で開催された第1回全国和牛能力共進会の肉牛区(産肉能力検定)で一等賞の栄誉に輝いたのが鳥取県の種雄牛「気高(けたか)」号です。「気高」号の優れた血統を受け継ぐ子孫が全国に広がり、各地のブランド牛の始祖として名を残しており、鳥取県でも「気高」号の血を引く「白鵬(はくほう)85の3」、「百合白清(ゆりしらきよ)2」が活躍しています。」とあります。
(参照:鳥取県商工労働部兼 農林水産部市場開拓局)
対して、鳥飼畜産の肉とは。
和牛の肉を評価するとき、全国的にも特に重要とされているのが、牛の大きさである「枝肉重量」、リブロース芯の面積の大きさを見る「ロース芯面積」、霜降りがいかに綺麗に入っているかを見る「脂肪交雑」の3つとされています。それに加えて、鳥取県が独自に調査し、評価している基準は、脂の質が良いものを評価する「オレイン酸」、熱や経年で変化しない「グリコーゲン」、グリコーゲンが多くて水分量が少ない「風味の良さ」の3つです。
鳥飼畜産の肉は、過去7年間の平均値で、鳥取県が独自に調査する3つの指標で、3ついずれもが高水準にありました。他の農家さんでは、オレイン酸だけ、グリコーゲンだけ、という風に、いずれかの要素だけが図抜けて高いところもありました。しかし、鳥飼畜産は、3つが総じて高いという状態です。
美味しさにとって大事なのは、何かが突出して優れているということでなく、バランスの良さだと思います。それがいずれも高水準でバランスが取れているというのは、おいしさを構成する要素としてはとても重要です。
なぜそれが可能なのか?
はっきりしたことは言えませんが、何度も取材する中で感じるのは、「市場導入がない、完全な一貫生産であること」だろうという結論です。1つの大家族の中で育つ牛たち。隣の牛舎からは、出荷される直前まで母親の声が聞こえる。そんな環境は、実は日本国内にはほとんどありません。「繁殖は繁殖」「肥育は肥育」といった分業が当たり前の世界だからです。ここ10年ほどで一貫生産を始める農家さんは増えました。しかし、全頭が自家産の牛を肥育に回すということができている農家さんは、非常に稀ではないかと思います。
牛は、血統と環境が半々で、肉質に影響すると言われます。人間も同じです。
牛の場合でいう、環境とは、餌が大半だと考えられてきました。しかし、もっと重要な要素があるのではないかと、鳥飼畜産を見ていたら感じます。環境とは、飼い主が変わらない、緯度による気候の変化がない、などもストレスに弱い牛にすると大事なのではないかと。動物を使った研究で、ストレスが少ない環境のほうが、肉にしたときのオレイン酸数値が上がるという結果も出ています。家畜は工業製品でなく生き物です。品質の良い状態で肉になってもらうためには、ストレスをいかに軽減するかも大事なことなのです。
ケビンさんからは、前回のオンラインミーティングのときに、「どういう牛が美味しいというのですか?」という素朴な疑問がありました。飲食店さんへの卸を担当している弊社の中村からは、枝肉の見方などの説明があり、ケビンさんはそれで納得してくれました。
しかし、より重要なのは、生きたままで肉質をどう見るか?です。
鳥飼畜産では、その“牛の見極め方”についても、ケビンさんにお伝えしました。
3.香港への鳥取和牛輸出に向けた商談に至る経緯
場所を本社に移して、鳥取和牛を輸出した場合、どのような状態でケビンさんの手元にブロック肉が届くのかを見ていただきました。
今回の商談は、鳥取県北栄町の商社「ファミリー」さんが繋げてくださいました。ファミリーさんは、中国人の社長をはじめ、日本人の社員さんたち女性ばかりの5人の会社で、鳥取県産品を海外、主に中国や香港に輸出している商社です。
今回は、ファミリーさんからケビンさんと中国語でコミュニケーションを取る通訳のフーダンさんも同行していただきました。
弊社ハワイ店では、実際に鳥飼畜産の肉を食べてもらいました。ケビンさんが一番気になっていた、その味と、脂の質について、ここでは大変満足していただきました。
4.今後の商談について
11月中旬には1頭のうち特定の部位を選んで購入してみたいという話に。新しく始める焼肉店なのか、それともすでにある店舗の明治屋なのか、すでにいくつかのメニュー化に向けた想定を組まれているようでした。
若手実業家のケビンさんに、今回の鳥取訪問で一番印象に残ったことは?と聞いたら、鳥飼畜産での飼養管理だと話してくださいました。「すべての牛たちを生ませてきた鳥飼さんは、子供を育てる母親のような愛情で牛と向き合っている。素晴らしいと思った。」
また、鳥取和牛をお腹いっぱい食べていただいたあとで、お腹の具合はどうか?と尋ねたら「脂がぜんぜん残ってないですね! 口の中にも、お腹の中にも残ってなくてさっぱりしています。」と答えていただきました。
今回の鳥取訪問をいたく気に入っていただきました。
また続報については随時お伝えしていきます。
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